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Jul

02

エッセイシリーズ「忘れようとしても思い出せない」その1タイトルについて

カテゴリー: ブログ |

現在、NO-MAで開催中の展覧会「忘れようとしても思い出せない」に合わせて、担当学芸員のエッセイを連載します。既に展覧会にご来場の方も、まだの方も、本展の見どころや裏話をご紹介する記事をお楽しみに。

その1「忘れようとしても思い出せない」というタイトルについて



本展タイトルの「忘れようとしても思い出せない」という言葉は、もともと夫婦漫才師「唄子・啓助」の鳳啓助のジョークの1つでした。赤塚不二夫もこれを気に入り、バカボンのパパのギャグとして用いています。
この言葉をはじめて知ったとき、不思議と切ない気持ちになりました。なにかとても大切なものがあるのだけれど、それにはもう手が届かないような……そんな気持ちがしたのです。
感情的なことを排して考えれば、この言葉が指し示す状況は、パラドックスだといえます。忘れようと対象を思い立つ時点で、思い出せないという状況はありえないので、これら二つのことを一度に成立させることは実際には無理だといえるでしょう。
しかし、理屈的には不可能だとしても、この言葉は、人間の記憶の性質を言い表しているような気がしてなりません。胸につっかかっている、忘れられない思い、しかし、それをはっきりとして思い出すことができない――そんな曖昧なイメージが胸に去来することがあります。いわば、言葉の網を潜りぬけ、心の底に沈殿していった過去の断片とでもいえるでしょうか。そういった言葉にならない過去の存在を思う時、確かに記憶は「忘れようとしても思い出せない」ものかもしれません。
本展を構想し、作者の表現に接していくうちに、その作品の持つ感覚が言葉にならないにも関わらず、心に迫ってくるように思えました。タイトル選びはとても悩みましたが、心の中でずっと引っ掛かっていたこの言葉を選ぶことにしました。
普段、私たちの生活は文字や記号に溢れていますが、この展覧会に訪れる時間が、言葉にならないような記憶に向き合うことができるようなひとときになれば、と思っています。

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